本のかたちを考える ― その1

現在は、本作りの工程のうち執筆から制作までアナログからデジタルに変化し、印刷工程もだいぶデジタル化が進んでいます。さらに本の配布・販売の領域でもデジタル化が進んでいます。そうした中で、これから本のかたちがどうなるかを考えてみます。

本とはなにか?

本とは内容を一定の方針のもとに記述・編集・編纂して、ひとつのパッケージ形態にしたものです。本の内容は文字(テキスト)が主で、補助的に写真・図・表などを含むことがあります。但し、最近は、コミック形式が増えており、教科書やテキストブックでも内容を文字のみで表す方式から図解やコミック形式による表現の人気が高まっているようです。これからは、動画・三次元画像・音声などを内容に含めることもあるでしょう。音声のみの本(オーディオブック)も本の一種類です。

本を作る目的はさまざまです。本は、著者が事実や自分の考えをまとめて記録・保管・配布し、それによって思想を伝達・啓蒙したり、エンターテインメントとしての本では読者の娯楽に供されます。

本の媒体は、長いことアナログである紙が多かったのですが、例えばPDFファイル[1]やEPUBファイル[2]などの形式のデジタル版(電子版)が増えています。現在はまだ紙の方がずっと多いようですが、将来はどうなるでしょうか? また、本と同じ内容をHTML[3]で制作してWebサイトにアップし、インターネットを通じて利用に供することもできます。但し、このような方式で提供されるものは、仮に本と同じ内容であっても本ではありません。CAS電子出版では「ECMJ流! Eコマースを勝ち抜く原理原則」シリーズ[4]という本を電子書籍と紙(プリントオンデマンド)で出版しています。これはブログを本としたものですが、内容は同じでもブログは決して本とは言えないでしょう。それは編集・制作過程からも言えます[5]。本とは内容をパッケージ化したものであり、パッケージ単位で持ち運んだり、送信できるものです。

「かたち」を持つ本と「かたち」を持たない本

かたちを持つ本とかたちを持たない本があります。ここでいう「かたち」は抽象的な概念ではありません。本の「かたち」というときは目に見えて、触ることのできる物体としてのかたちとします。

現在は、かたちをもつ本のほとんどは媒体として紙を使います。歴史上では、パピルスや羊皮紙なども本を表現する媒体として使われたこともあるのは周知の事実です。しかし、現時点ではかたちをもつ本の媒体として紙以外を考える必要はないでしょう。

デジタルの本はかたちをもちません。EPUBは内容を複数のHTMLとして表現し、スパインという形式で複数のHTMLの表示順序を指定し、ナビゲーション用のファイルを作成して、これらをひとつのパッケージとしたものです。EPUBは内容の形式はWebサイトと同じですが、パッケージ化されている点が異なります。

現在のデジタル出版の世界では、W3CによるIDPFの吸収が話題となっています[6]。これにより出版の標準形式であるEPUBとWebの融合が進む可能性があります。これが、デジタルの本やかたちをもつ本にどういう影響があるかはまだわかりません。

冊子本とページ

紙の本のかたちは大きくわけると巻物形式(巻子本)、お経のような折り本、一定寸法に切った紙を綴じて作った綴じ本(冊子本)などになります。綴じ本は綴じたカバーをつけたりして製本します。和製本、洋製本などの製本方式があります。現在、制作されている本のほとんどは洋製本によるものです。

冊子本にはページがあります。日本語で本のページというと冊子本を構成する1枚の紙の片面を示します。インターネット用語ではWebページという言葉も一般的ですが、ここでは特に指定しないかぎり、ページという言葉は紙の本のページを指すこととします。

表記の手段

1980年代までは、本を書くときは鉛筆・万年筆・ボールペンなどの筆記具を使って紙に筆記していました。

20世紀の最後の15年位に筆記の代わりにワードプロセッサ(ワープロ)で文章を入力・編集することが普及しました。ワープロが普及してから、本を書く道具としての筆記具はあまり使わなくなっています。本を書いたり編集したりするツールは、既にアナログからデジタルに変わってしまいました。

複製の手段

表記がアナログ時代で行われていた時代には、原稿から複製元となる版を作り、版を使って複製する方法が行われていました。1960年頃までは、学校でも謄写版で複製していました。その後はアナログの複写機が使われていました。また、より多くの部数を複製するときは、版を作って、インクと印刷機を使うアナログ印刷によって複製する方法が一般的でした。

しかし、デジタルで執筆するようになってからは、少ない部数であればプリンターによる印刷、部数が多くなれば複写機を使うようになっています。プリンターには小型のデスクトッププリンターから大型のデジタルプリンターまで幅広いのですが、すでに、アナログの印刷機に匹敵する性能をもつ高速デジタルプリンターも実用になっています。デジタルプリンターを使ってプリントオンデマンドで本を作る方式も普及しています。

ページへの割り付け

ワードプロセッサで入力した内容をプリンターで紙に印刷するとき、ページは紙の一つの面です。このページの区切りには二種類あります。第一は、ワードプロセッサの「ページ区切り」機能を指定してできる区切りです。第二はワードプロセッサで入力・編集した内容をプリンターで紙に出力するときにできるページの区切りです。前者の区切りは入力した人の意思によるものですが、第二の区切りは紙の上のページという一定の大きさに内容が入りきらないために発生する区切りです。

冊子本ではページの大きさによってページ区切りが必要です。ページ区切りという制約は巻子本やWebページなどではあまり考える必要がないことです。

ページへのレイアウト最適化

1980年代中頃からデスクトップパブリッシング(DTP)が登場してきました。DTPソフトとワードプロセッサとの本質的な違いは、ページ上に印刷対象となるテキスト、図、表などを最適に配置する機能の充実度にあるといえます。ワードプロセサではページ上に印刷対象物を最適配置することは重視しないのが普通です。それは、文章を編集した結果としてテキストの分量が増えれば、その結果として上述の第二のページ区切りの位置が変わってしまうので、ページ上の図表の最適配置はやり直しになるからです。内容の編集に重点を置くならば、ページ上の図表の最適配置は無視せざるを得ないことになります。

PDF

印刷対象をページに配置した状態をデジタルデータとしたものがPDFです。PDFは印刷対象を、DTPでページにレイアウトした状態を、印刷会社へ引き渡すデータ交換のための技術(ページ記述言語)から発展しました。現在ではPDFそのものを配布・蓄積することも一般的になっています。PDFファイルを紙の本の代わりに利用することも一般的です。

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